(Jacques Descloitres, MODIS Rapid Response Team, NASA/GSFC)
この写真は2003年の3月に撮影したものです.一面に広がる砂漠の中で,ナイル川に沿った地域だけが緑地帯となり,それが河口付近の広大なデルタ地帯(扇状地)で扇形に広がっていく様子が印象的です.
この一帯は降水量の少ない砂漠地帯のため,水の供給が可能なナイル川流域に人口が集中しています.「地球の夜景」の写真では,夜の闇の中で,人口の集中するナイル川流域だけが紐のように光っている様子が見られます.
デルタ地帯が広がり始める地点,ちょうど扇のかなめの位置の東側にやや濃いグレーに見えるのが,エジプトの首都カイロです.またナイル川をはさんでその西側には,三大ピラミッドやスフィンクスで有名なギザがあります.カイロ以外の都市も,デルタ地帯の緑の中にグレーの斑点のように見えています.ナイル川の東側には逆三角形をしたシナイ半島があり,デルタ地帯との間には,紅海と地中海を南北に結ぶスエズ運河もはっきりと見えています.
ナイル川は,中央アフリカから北アフリカを南北に貫く世界最長の川で,その全長は6,695 kmに達します.じつに札幌から鹿児島までの距離の約4倍になります.ナイル川はその流域に幅約2 km〜10 kmの帯状の緑地を発達させると共に,下流に肥沃な土や有機物を運んで堆積させ,デルタ地帯に広大な緑地を形成しました.エジプトの耕作可能な土地の56%を,このデルタ地帯が占めています.まさに「エジプトはナイルの賜物(古代ギリシャの歴史学者ヘロドトスの言葉)」と言えます.
デルタ地帯に接する地中海を見ると,海水が緑色に色づいて渦巻いている光景が見られます.これは,川から流れ込んだ肥沃な土や有機物,海の植物プランクトンなどが交じり合っている様子です.一方,デルタ地帯の西側の海ではその色は明るいブルーで,より有機物の少ない土砂が流れ込んでいるものと思われます.