(NASA/JSC)
2008年2月,西アフリカ上空を飛行中の国際宇宙ステーションから撮影した雲の写真です.
画面中央のひときわ大きく円盤状に広がった雲が目を惹きます.非常に発達した積乱雲の姿です.その周辺にも幾つもの雲がモクモクと湧き上がっているのが見られます.
積乱雲とは,暖かく湿った空気が強い上昇気流で押し上げられ,発生した雲が鉛直方向に発達し,高度12キロメートル付近の「対流圏界面」と呼ばれる領域まで達した雲のことです.雲の種類の中で最も巨大なものです.
雲はどのようにしてできるのでしょうか?
空気は暖かい地面に触れると軽くなって上昇しはじめます.空気が上方に移動するとその温度は次第に低下し,ある温度以下になると空気中の水蒸気が気体の状態ではいられなくなって水滴や氷晶になり,雲が生じます.上昇した空気が周りの空気と同じ温度になったところで空気の上昇は止まり,雲の発達も収まります.
しかし上空の気温が低いなどの原因で,上昇した空気の温度がいつまでも周りの空気より高い状態が続くと,空気は上昇しつづけ,鉛直方向に発達した雲を形成します.
このように上昇気流を生じやすい状態を「大気の状態が不安定」であるといいます.ときどき天気予報で,「上空に寒気が流れ込み,大気の状態が不安定になっています」と言っていますね.
発達した巨大な雲は時として高度12キロメートル付近の「対流圏界面」と呼ばれる領域まで達し,積乱雲と名付けられます.
地表から高度約12キロメートルまでの大気の層は「対流圏」と呼ばれ,高度が上がるにつれ気温は低くなっていきます.しかし高度約12キロメートルを越えて50キロメートル付近までの「成層圏」では,高度が上がってもそれ以上気温は下がらず,逆に上昇していきます.
このため,対流圏で発生した上昇気流も成層圏の中まで上昇していくことはできず,発達中の積乱雲も鉛直方向には発達できずに水平に広がっていきます.この対流圏と成層圏の境界を「対流圏界面」と呼びます.
今回ご紹介した写真は,このように対流圏界面まで達し,雲のいちばん上の部分(雲頂部)が水平に大きく広がった積乱雲の姿を宇宙から見たものです.
画面右側には,発達してちょうど対流圏界面に達した積乱雲も見られます.
★地球の大気については,「大気から宇宙へ」の解説をご覧ください.
積乱雲は非常に厚く発達するため下から見るととても暗く見え,激しい上昇気流によって雷雨やひょう,ときに竜巻を発生させます.しかし雲としての寿命は短く,積乱雲が1時間以上存在することはないということです.
発達した積乱雲を別名「かなとこ雲」と呼ぶのをご存知でしょうか?かなとこ(金床)とは,金属加工を行う際に用いる作業台のことで,その形が,雲頂部が水平に広がった積乱雲に似ていることから名付けられたものです.
地球大気の層の境界は直接目には見えませんが,今回の写真のように,発達した積乱雲は対流圏と成層圏の境界をはっきりと示してくれます.「あそこに対流圏と成層圏の境があるのか…」と思って見ると,また違った印象で積乱雲を眺めることができるのではないでしょうか.