(NASA/JSC)
この写真は,2007年春に国際宇宙ステーションから撮影された,中央アジアのアラル海で発生したダストストーム(砂塵嵐)です.
地表を吹き抜ける西風によって,大量の砂塵が巻き上げられる様子が宇宙から捉えられています.よく見ると,砂塵が舞い上がる場所はある程度規則的に並んでいるのが分かります.地形的な影響か,風の力学的な特性でしょうか?
アラル海の場所はこちらです.
実はこのダストストーム,ただ大自然の雄大な風景として見過ごすことのできない大きな問題を含んでいます.
アラル海はカザフスタンとウズペキスタンにまたがる塩湖で,かつては世界で4番目の大きさを誇る湖でした.
しかし1960年代以降,アラル海に流れ込むアムダリア川の流量が激減し,湖の面積が急激に縮小してしまいました.大量の灌漑用水が周辺の綿花栽培のために取水されたためでした.1960年と比較してアラル海の面積は60%以上,水量は80%以上も減少したとされています.
↑ 1973年から2000年にかけて湖の同じ場所を撮影した衛星写真で,変化の様子が分かります.
(NASA/Goddard Space Flight Center Scientific Visualization Studio)
今回ダストストームが撮影された土地は,かつての湖底が干上がった部分なのです.最初にご紹介した写真で湖岸線が白く見えているのは,析出した塩分です.
そしてこの干上がった湖底部分には,綿花栽培で大量に使用された化学肥料や農薬が流入,堆積しています.それらの化学物質と塩分とが風に巻き上げられ,周辺数百キロメートルにわたり飛散しているのです.このダストストームが原因で周辺住民に健康被害が出ているとの研究報告が出されています.
湖の塩分濃度が上昇したことで生物のほとんどが死滅し,漁業は壊滅状態になりました.また大量の水による気温の緩衝作用が減ったことで,気候がより厳しくなり(夏はより高温に,冬はより低温になった),農作物への悪影響も出ています.
現在のアラル海は,水位の低下によって北アラル海と南アラル海に分断されていますが,近年,湖の縮小防止対策により北アラル海では水位の回復傾向が見られているとのことです.しかし南アラル海の縮小には歯止めがかからず,予断を許さない状況です.
周辺住民の多くが,その生活を川からの灌漑で作られる穀物に依存しているという状況が,対策の立て方を難しくしています.